一般社団法人 日本医業承継機構

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コラム

開業5年で約5,000万円以上違うことも。新規開業と承継開業の事業収支をシミュレーション

クリニックを新規開業する場合と、既存クリニックから承継開業をする場合では、具体的にどれくらい収支に違いが出てくるのでしょうか。新規開業と承継開業の事業性の違いは、開業を目指す医師にとって非常に有用な情報です。

そこで今回の記事では、クリニックを新規開業する場合と、既存クリニックから承継開業をする場合、それぞれの開業5年間の収支シミュレーションをご紹介します。また、新規開業と承継開業それぞれのメリットも解説しますので、クリニックの開業を検討されている医師の方はぜひ参考にしてみてください。

※1 投資総額は、本サイト記事「承継開業で低コストの開業が可能に。承継開業と新規開業の資金を比較」での試算を元に設定しています。

※2 従業員給与はどちらの場合も4名(常勤看護師1名、非常勤看護師1名、常勤医療事務1名、非常勤医療事務1名)、定期昇給年2%で設定しています。なお、承継開業は従業員も引き継ぐため約1.2倍の給与でスタートするよう設定しています。

それでは、新規開業と承継稼業それぞれの収支を、項目別に損益計算書の形でシミュレーションしてみましょう。

新規開業 損益計算書(5年)のシミュレーション

・新規開業 初期投資額の内訳

承継開業 損益計算書(5年)のシミュレーション

・承継開業 初期投資額の内訳

承継開業のほうが収支で上回り、初期投資も早く回収できる可能性が高い

シミュレーション上では、新規開業の5年計の営業利益は1億533万円、承継開業の5年計の利益は1億6,410万円となっており、約5,900万円もの差が付いています。これだけの差が付く主な理由として、初年度・2年目の売上で承継開業が上回ることが挙げられます。加えて、若干ではあるものの、リース料・減価償却費などの販売管理費の出費面で新規開業の負担が大きいことも挙げられるでしょう。

次に、初期投資額の回収についてです。新規開業の場合、内装工事や医療機器に大きな投資が必要になり、初期投資額は8,140万円の試算になります。一方、承継開業は既存クリニックの内装や機器をそのまま引き継げるため初期費用が抑えられ、初期投資額は4,600万円の試算になります。

初期投資額自体に差があり、さらに営業利益でも承継開業のほうが上回るため、回収までにかかる年数は、新規開業が4.3年の見込みに対し、承継開業は1.5年の見込みです。初期費用を回収し終わり、黒字で運転していける時期に入るのに3年近い差が出てしまうことは、大きな懸念点といえるでしょう。

1年目・2年目の患者数で承継開業が大きく有利

続いて、売上高の違いについて見ていきましょう。シミュレーション上では、3年目以降は同じ売上ですが、1・2年目は承継開業のほうが上回っており、特に1年目は約4,200万円もの差が付いています。

販売管理費の差などもあるものの、5年間収支のシミュレーションで最終的に約5,900万円の違いが出る最大の理由として、この1・2年目の売上差が挙げられます。

新規開業の患者数推移シミュレーション

新規開業の場合、まず地域の患者さんに「新しくクリニックができた」と認知してもらう必要があるため、どうしても宣伝広告費がかかります。さらに、多くの患者さんはすでに同地域にかかりつけのクリニックをもっている可能性が高いことから、他のクリニックとは違う魅力を打ち出し、競争に勝って患者さんを獲得しなくてはなりません。そのため、最初の1~2年は患者数が伸び悩み、その分売上高も上がりにくい傾向にあります。

承継開業の患者数シミュレーション

一方、承継開業の場合は、既存クリニックの患者さんを引き継げるため、顧客獲得の面で非常に有利です。また、すでにクリニックの存在も認知されているため、宣伝広告費もあまり必要ありません。

新規開業と承継開業、それぞれのメリット

ここまでのシミュレーションを踏まえ、新規開業と承継開業それぞれのメリットを簡潔にご紹介します。次回のコラムで、改めて、それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。

承継開業は、既存クリニックの内装や設備をある程度引き継げるため、新規開業に比較して初期投資費用が抑えられことが多いです。また、患者さんも既存クリニックから引き継げるため、開業初年度から安定した経営が見込めます。こうしたメリットから、事業の安定性については承継開業のほうが有利だといえるでしょう。

ただし、営業利益が高い案件は、のれん代が高くなる傾向にあるため、初期投資額や投資額が、どのタイミングで回収できるか考慮した上で検討することをお勧めします。

一方、新規開業は初期投資費用が大きくかかったり、広告宣伝費をかけて患者さんを獲得していく必要があったりと資金負担が大きく、軌道に乗るまでに時間はかかりますが、その分自由度が高いことがメリットです。開業の際に自分の納得いく立地・物件を選ぶことができますし、取引業者も一から選定可能です。自分がその地域でどのような医療を提供したいかというこだわりがある場合などは、新規開業のほうがよりイメージに近い形での医院経営を行えるでしょう。

上記のことから、開業5年間の収支シミュレーションの結果、承継開業のほうが約5,900万円分利益で上回り、初期投資費用についても新規開業に比べて約3年早く回収できる見込みであることが分かりました。もちろん、診療科や地代などの前提諸条件が変われば、シミュレーションの結果や数字も変化しますが、特殊な条件などがない限りは、新規開業に比べて承継開業のほうが事業の安定性は得やすいでしょう。

初期投資費用や事業安定性にどれだけ差があるか、事業が軌道に乗るまでにどれくらいかかるのかは、開業を目指す医師の皆さんにとって非常に重要なファクターです。承継開業はそうした資金面・事業安定性の面で新規開業に比べて有利であることが多いため、ぜひご検討されてみてはいかがでしょうか。

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