一般社団法人 日本医業承継機構

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コラム

「承継開業」と「新規開業」の違いとは?それぞれのメリットデメリットを比較

クリニックの開業には、既存のクリニックを引き継ぐ「承継開業」と、ゼロから立ち上げる「新規開業」の2つの選択肢があります。どちらの方法で開業しようか悩む場合もあるかもしれませんが、両者の違いに注目することによって“適した開業スタイル”が自然に見えてくるでしょう。

そこで今回は「承継開業」と「新規開業」について解説しながら、それぞれのメリット・デメリットを詳しくご紹介します。さらには、経営面におけるメリットが高い「承継開業」に焦点を当て、成功に向けて実践したいポイントをまとめました。

「承継開業」と「新規開業」の基礎知識をしっかりと深めて、ご自身にとって最適な開業方法を慎重に見極めましょう。

「承継開業」と「新規開業」は一長一短

本コラムの第1回でも触れていますが、ここで改めて「承継開業」と「新規開業」の主な違いを押さえておきましょう。

承継開業とは、すでに開業しているクリニックを譲り受ける開業スタイルのことです。大きく分けて、経営者の親族による「親族内承継」、院内に勤務する医師による「院内承継」、親族や院内医師以外の第三者による「第三者承継」の3つのパターンがあります。

一方で、新規開業は新たなクリニックを設ける開業スタイルです。立地や建物、内装デザイン、医療機器、診療方針といったすべての要素を開業医自身が決定し、スタッフの採用や集患対策なども行いながら独立開業を目指します。 かつては“クリニック開業は成功しやすい”といわれ、ゼロから立ち上げる新規開業がスタンダードでした。しかし、近年においては開業市場の競争激化や医師の高齢化、後継者不在などの要因により、承継開業のケースが増加傾向にあります。

承継開業のメリット

ここからは、承継開業と新規開業のメリット・デメリットに注目してみましょう。まずは、承継開業の主なメリットを3つご紹介します。

新規開業に比べて初期費用を抑えられるケースが多い

承継開業時には基本的に既存の建物を引き継ぐため、新規開業に比べて初期費用を抑えられるケースが多いです。建物だけでなく医療機器やインテリアなども併せて引き継げるケースもあり、1から準備する場合と比較すると大幅なコストカットにつながります。

また、すでに認知があることから最小限のPR活動で済み、広告・宣伝費用を削減できることも承継開業ならではのメリットです。

承継開業と新規開業の初期費用の具体的な比較例について、本コラムの第2回で触れていますのでご参照ください。

患者やスタッフ、環境を引き継げる

承継開業においては前クリニックの患者さんを引き継げるケースが多く、集患コストや手間を削減できます。また、双方の合意のもとでスタッフも引き継ぐことができれば、人材確保のコストや手間を省くことも可能です。

さらに、エリア内のほかの医療機関との連携や、医師会への入会などもスムーズに行える可能性が高く、開業に向けた環境づくりに苦労することもありません。

収支計画を立てやすい

前述のように、承継開業では基本的に患者さんも引き継ぐことになるため、前クリニックの実績を元に収支計画を立てやすくなります。開業前の段階からしっかりと収支の見込みを把握することで綿密な事業計画の作成が実現し、クリニック経営を円滑に進められるでしょう。

承継開業のデメリット

一方、クリニックの承継開業において考えられるデメリットは以下の通りです。

すぐに希望の承継先とマッチするとは限らない

新規開業に比べて物件の選択肢が少ない点も、承継開業におけるデメリットのひとつです。希望条件にマッチするクリニックがなかなか見つからず、開業までに想定以上の時間がかかることも珍しくありません。特に、立地面のミスマッチに悩むケースが多く、場合によっては診療方針に合わないエリアで開業せざるを得ない可能性もあります。そのため、承継開業は余裕を持って取り組むのが望ましいです。

建物や設備の老朽化による修繕費用

承継開業では建物や設備、医療器械などを引き継ぐことにより初期費用を抑える効果が期待できますが、建物や設備の老朽化が進みすぎている、医療器械が古く最新の治療ができない場合には建物設備の修繕や医療機器の買い替えが必要になってくるケースがあります。

前院長の診療方針やスタイルを考慮する必要がある

スタッフや患者さんは前院長の診療方針やスタイルに慣れているため、特に承継開業直後はその点に配慮しながら経営を進めることが必要です。ご自身の方針やスタイルが前院長と大きく異なる場合は、多少のやりにくさを感じることがあるかもしれません。

新規開業のメリット

続いては、クリニックの新規開業における主なメリットを見ていきましょう。

開業エリア・物件の選択肢が豊富

新規開業においては、承継開業よりも多くの選択肢の中から開業エリアや物件を選定することが可能です。例えば、出身地や自宅の近くなど、地の利がある場所での開業も実現しやすい傾向があります。

自由度が高く、イメージに近い医院設計が可能

新規開業の場合は内装の自由度が高く、こだわりや理想を反映させやすいことも大きな魅力です。間取りをはじめ、設置する医療機器やインテリアなどを自身ですべて選択できるため、目指す医療のイメージに近い医院設計が叶います。

理念に合うスタッフを採用できる

新規開業時にスタッフを1から採用する必要がありますが、医院の理念に合う人材をそろえられれば、開業後に起こり得る「医院とスタッフとのミスマッチ」などのトラブル防止につながります。また、開業までの期間中に研修を実施することによってスタッフの団結力を高められ、スムーズなスタートダッシュを切れることもメリットのひとつです。

新規開業のデメリット

前述のようなメリットがある一方で、新規開業には下記のようなデメリットがある点に注意しましょう。

初期費用がかかる

新規開業時にはクリニックに関連するヒト・モノをすべて準備する必要があるため、承継開業よりも多くの初期費用がかかります。また、事業計画の作成から物件・医療機器の選定、スタッフの採用など開業医自身が着手すべきことも多く、開業に至るまでに莫大な時間と手間を要する点はデメリットといえるでしょう。

事業が安定するまで期間を要する

承継開業の場合は患者さんも引き継ぐケースがほとんどですが、新規開業の場合は1から集患を行わなければなりません。そのため、開業からどの程度で黒字化するのかを予測しづらく、事業が安定するまではある程度の期間を要する傾向があります。

承継成功に向けて実践したい2つのポイント

承継開業と新規開業にはどちらにもメリット・デメリットが存在しますが、経営面においては医院承継のほうがメリットは大きいといえます。ただし、前述したような承継開業ならではの注意点もあるため、以下でご紹介するポイントを参考にしながら慎重に承継を進めていきましょう。

自分に合った承継先を慎重に見極める

実際に承継してから後悔することのないよう、細かな部分までチェックした上で承継先を選定することが大切です。具体的には、主に下記の点に注目するとよいでしょう。

・法務、財務、労務などのデューデリジェンス

・スタッフの継続雇用の有無・雇用条件

・地域内での口コミ・評判

・近隣施設との関係性

・診療圏内の将来的な人口推移や患者層

・診療圏内への競合の開業予定

また、実際に候補先へ出向いて立地や施設の雰囲気、患者層、スタッフの様子などを観察することも重要です。現場で目にしなければ分からない情報もあり、開業後のイメージがよりつかみやすくなります。

医業承継の仲介サービスやコンサルタントを利用する

できるだけ盲点をなくした上で納得できる承継先を決定し、スムーズに引き継ぎを行いたい場合は、医業承継の仲介サービスや医業承継コンサルタントを利用するのも一手です。これらのサービスは、承継先を探している開業医と承継開業を希望する未開業医のマッチングを行っており、条件にマッチした承継先探しを親身にサポートしてくれます。

実績のある業者を利用することで、候補先に関する細かな情報を提供してもらえるほか、経営に関するアドバイスや各種手続きのサポートを得ながら安心感を持って承継を進められます。また、価格や条件面の折り合いが付かない場合に、交渉を仲介してもらえるなど、メリットが大きいです。

自身の診療コンセプトを見据え、最適な選択を

こだわりの詰まった“自分仕様のクリニック”で開業したい場合は、ゼロから立ち上げる新規開業が適しています。しかし「初期費用をできるだけ抑えたい」「早急に経営を軌道に乗せたい」とお考えの場合は、既存のクリニックを譲り受ける承継開業がおすすめです。

まずはご自身が描く診療コンセプトを明確にし、どちらの開業スタイルが適しているのかを慎重に検討してみましょう。また、承継開業を希望する場合は実績豊富な仲介サービスやコンサルタントなどを活用し、妥協のないスムーズな医業承継を目指してください。

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