一般社団法人 日本医業承継機構

お問合せお問合せ
コラム

医業承継の現状を知り、第三者承継も含めた選択肢を考える

少子高齢化と人口減少により、日本のさまざまな業界で中小企業の後継者不足が問題となっています。医療分野でも同様に、病院や診療所の後継者不足は深刻化しており、事業承継者が見つからないまま閉院を検討しているというケースも増えてきています。

子どもをはじめとした親族への承継が難しい場合は、M&A(合併・買収)を含む「第三者承継」という選択肢もあります。しかし、信頼できる相談先の選定や適正な価格での譲渡などハードルが多いため、悩まれている医療経営者の方も多いでしょう。また、開業を検討している未開業医の方の中には、既存医院の承継による開業を考えられている方もいらっしゃるかもしれません。

そこで、本記事では医業承継の現状について、診療所数の増減や経営者の高齢化、医業承継に関する意識などのデータに基づいてご紹介するとともに、第三者承継を含めた承継について解説します。

8割以上の診療所経営者が抱える「後継者問題」

日医総研が2017年に行った調査によると、医療機関開設者の後継者不在率(後継者がいないと確定しているケースおよび、現時点で後継者が決まっていないケース)は、有床診療所・無床診療所合わせて86.1%、病院では68.4%に上っており、診療所だけを見れば8割以上が後継者問題に悩んでいることになります。

また、医療機関開設者に向けた医業承継実態調査によると、開設者の62%が親族への承継を検討していますが、全体の43.9%が閉院も検討していると回答しています。

出典:日医総研ワーキングペーパー

医療機関の廃止・休止施設数が増加

後継者が見つからなければ、将来的にその医療機関は閉院せざるを得ません。統計によると、病院と診療所を合わせた廃止・休止施設数は、1996年には年間4,274件だったのが2014年には年間7,677件まで増加しています。

廃止・休止施設数が増加している一方で、日本全体の医療施設数自体はわずかに増加傾向にあり、中でも無床診療所は全体の休止・廃止数を上回って増加しています。そのため、現時点では、地域の病院や診療所が足りなくなる、無医地区が増えるといった事態には至っていません。

しかし、このまま廃止・休止施設数が増え続けていけば、十分な医療が行えなくなる地域が出てきたり、無医地区が増えてしまったりする可能性も考えられます。実際に、無床診療所が増加しているのに対し、病院施設や有床診療所は1990年頃をピークに減少しています。特に著しい減少傾向にあるのが、99床以下の小規模病院と有床診療所です。1990年代前半には全国に20,000施設以上あった有床診療所は、2014年時点では約8,000施設となっており、約20年間で半数以下まで減少しています。

出典:日医総研ワーキングペーパー

後継者不足から医療施設経営者の高齢化が進む

後継者不足による医療施設経営者の高齢化も、問題となっています。同じく日医総研の調査によると、病院経営者の平均年齢は62.0才(2004年)から64.2才(2016年)に上昇し、診療所経営者の平均年齢は59.4才(2004年)から61.2才(2016)に上昇しています。60才以上の経営者が占める割合は、病院が66.1%(2017年)、診療所が52.6%(2017年)であることが明らかになりました。

公的病院や民間病院の場合は、法律やその病院の規定に沿った定年がありますが、開業医の場合、定年時期は自分自身の判断です。後継者が見つからないために現役を退くことができず、さらに高齢化が進むといった背景が推察されます。また、医療施設経営者は原則として医師の資格条件が求められるため、他業界に比べて、後継者を探すハードルが高いという点も理由のひとつです。廃止・休止施設数増加の背景には、このような経営者の高齢化と後継者不足があると考えられます。

出典:日医総研ワーキングペーパー

「親族内承継」「院内承継」「第三者承継」という3つの選択肢

通常、承継先の候補として最初に考えられるのは自身の子による「親族内承継」です。子の他に配偶者、親族なども、医師であれば親族内承継の候補になります。続いては、経営する病院や診療所に勤務する医師を承継先とする「院内承継」です。そのいずれも難しい場合に候補となるのが、M&A(合併・買収)を含む「第三者承継」です。

承継先をどのように選択すればよいか、以下で見ていきましょう。

子による親族内承継が減少している理由

子も医師である場合は、後継者の第一候補となることが多いでしょう。しかし、昔に比べると子による承継は少なくなっています。その理由として主に挙げられるのが、地域の将来性に対する不安と、子とその家族にとっての生活環境の不安です。

一部大都市圏を除き、日本全国で人口は減少傾向にあります。そのため、地方の病院・診療所の場合は、承継したとしても地域人口の減少により患者が不足し、将来的に安定した経営が行えない可能性があります。

また、子がすでに家庭をもっている場合、パートナーの仕事や子どもの学校などの事情から、環境を変えることが難しいケースも考えられます。家庭の事情だけでなく、他病院で勤務医などをしている場合は、収入面や仕事の内容面で、そちらを続けることを選択するという可能性もあるでしょう。いずれにせよ、子や配偶者、親族による親族内承継は、できるだけ早い段階から親族内で話し合いを進め、準備をしておく必要があります。

親族内承継が難しい場合は、病院に勤務する医師による院内承継を検討しましょう。こちらも早い段階から候補者と話し合いを行い、本人の意思や適性を確認しておくことが重要です。

「第三者承継」を検討する場合は医業承継コンサルタントや医師会、行政に相談を

親族内承継、院内承継ともに難しい場合に候補となるのが、第三者承継です。具体的には、当該地域で開業を検討している医師に承継してもらうケースや、他医療機関とのM&A(合併・買収)といったケースが考えられます。

第三者承継でネックとなるのが、医業譲渡希望者と譲受希望者のマッチングです。譲受希望者を探すには信頼できる相談先が必要になりますし、希望者が見つかったとしても価格や条件面でお互いに納得がいくよう話し合わなくてはなりません。実際に、第三者承継を検討したくても、どうやって譲受希望者を探したらよいか、どこで情報を集め、何から始めたらよいのか分からずに、悩む経営者の方も多いのではないでしょうか。

一般的な企業の事業譲渡やM&Aに比べると、医療機関に特化した手続きの情報、コンサルタントはまだ少ない状況ですが、医業承継コンサルタントへの相談などで、まず情報収集を始めましょう。また、地域行政や医師会を通じて情報や支援が得られることもあるため、相談してみるのもひとつの手段です。

記事一覧に戻る