一般社団法人 日本医業承継機構

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クリニックの「承継」と「廃業」どちらを選ぶべき?院長・スタッフ・患者、それぞれの視点から解説

クリニック経営の継続が難しい場合、他者に医業承継するか、廃業するかの二者択一を迫られます。どちらを選ぶかで、経営者自身やスタッフ、患者さんを取り巻く状況が大きく変わってくるため、慎重に検討した上で方向性を決めることが大切です。

そこで、今回はクリニックの承継と廃業を検討する背景に触れながら、それぞれが与える影響について院長・スタッフ・患者の3つの視点から詳しく解説します。

承継と廃業のどちらを選ぶかお悩みの方は、ぜひ参考にしながらご自身に最良の選択肢を見極めてみてください。

クリニックの承継と廃業を検討する背景

本コラムの第1回で詳しくお伝えしましたが、クリニックの承継と廃業を検討する背景には、現在医療業界が直面している「経営者の高齢化」と「後継者不在」の2つの問題があります。

まずは「経営者の高齢化」に関して見ていきましょう。日医総研が2017年に実施した調査によると、60歳以上の経営者が占める割合は病院が約6割、診療所が約5割でした。開業医には定年がなく、一般的な定年年齢である65歳を超えても働けることから、日本社会全体の高齢化とともに医療業界における深刻な高齢化が予想されます。

また、同じく日医総研の調査では、8割以上の診療所、さらに6割以上の病院で「後継者が決まっていない状態(2017年時点)」と公表されています。かつては経営者の子どもが後継者としてクリニックの跡を継ぐケースが一般的でしたが、近年は少子化や目指す診療科・職業の違いなどによって親族間での承継がうまくいかず、悩む経営者が多い印象です。 これらの2つの問題を背景として、経営者の加齢に伴う体力低下や体調不良などによりクリニック運営を継続できなくなり、事業承継または廃業を検討する事例が増加傾向にあります。

院長・スタッフ・患者の3つの視点から考える「承継or廃業」

跡継ぎがいない場合は「廃業一択」と考える経営者もいらっしゃるかもしれませんが、廃業にはさまざまなデメリットがあるため注意が必要です。それに対し、事業承継には経営者自身はもちろんスタッフや患者さんにも多くのメリットがあることから、周囲に後継者がいない場合は「M&Aによる第三者承継」を目指すケースも増えてきています。

では、承継および廃業が具体的にどのような影響を与えるのか、院長・スタッフ・患者さんの3つの視点で詳しく見ていきましょう。

院長の視点から見る承継と廃業

事業承継が成功した場合、クリニックの経営権と資産を売却することになり、経営者は買い手側から譲渡金を得られ、勇退後の生活資金として活用できるほか、債務が残っている場合は返済に充てることも可能です。譲渡金は二千万円~四千万円のケースが多く、規模によっては1億円を超えることもあります。

また、患者さんやスタッフへ前向きな案内ができることから、精神的負担が少なく、患者さんやスタッフを守ることにつながる点もメリットとして挙げられます。ただし、スムーズに移行できるように綿密な引き継ぎを行うことが大切です。

一方、廃業する場合は数百万円~一千万円超の廃業コストが発生します。例えば、医療機器・院内設備の処分にかかる費用をはじめ、テナント物件の原状回復費用や債務の返済費用、従業員への退職金、専門家への業務委託費用(廃業に伴う各種手続きを専門家へ代行依頼する場合)などです。

さらに、廃業を表明してから廃業に至るまでは、初診を断りながら既存の患者さんの診察や他院への紹介といった業務を行わなければなりません。そのため、場合によっては業績が赤字となる可能性がある点にも注意が必要です。患者さんやスタッフへ廃業する旨を伝える負担もかかり、経済面・精神面においてリスクがあるといえるでしょう。

スタッフの視点から見る承継と廃業

事業承継によってクリニックが存続となる場合、既存スタッフの雇用は新しい院長のもとで継続されるケースが多いです。スタッフにとっては再就職先を探す手間がかからず、慣れ親しんだ環境で引き続き業務に携われることはメリットです。

クリニックが廃業となる場合は雇用関係が解消されるため、スタッフは必然的に新たな職場を探す必要があります。地域の医療環境によっては職場探しが難航することもあり、再就職先が見つからないまま勤務最終日を迎えてしまう可能性も考えられるでしょう。

患者さんの視点から見る承継と廃業

事業承継をする場合、患者さんは慣れ親しんだクリニックに引き続き通院できます。信頼する医師から受け継がれている点への安心感もあり、事業承継後もそのクリニックに通い続ける患者さんが多いです。 一方で通っているクリニックが廃業となれば、かかりつけ医を新たに探さなければなりません。特に高齢者の場合、周辺の医療環境や自身の疾患によっては通える範囲内に適切なクリニックが存在せず、通院が難しくなってしまう可能性もあります。

医業承継なら院長・スタッフ・患者それぞれにメリットがある

ここまでご紹介した内容を簡潔にまとめると、承継と廃業が院長・スタッフ・患者に与える影響は以下の通りです。

このように、廃業にはさまざまなリスクがあることから、近年は承継によってクリニックを存続させる道を目指す経営者が多く見られます。経営者の子どもや配偶者、兄弟へと受け継ぐ「親族内承継」や、院内に勤務する医師による「院内承継」が可能か検討し、難しい場合はM&Aによって第三者に譲り渡す「第三者承継」を検討するのもひとつの方法です。

ただし、第三者承継の場合は買い手探しに多くの時間と労力を要するほか、M&Aに関する専門知識も必要です。そのため、自力で行うことに不安を感じる場合は「医業承継の仲介サービスや医業承継コンサルタント」を利用して承継先を探すことをおすすめします。 特に、実績豊富な業者を利用すれば、専門家からの的確なアドバイスを得ながら安心感を持って承継に臨めるでしょう。また、業界内のコネクションによって豊富な選択肢を提示してもらえる可能性も高く、希望に合う譲渡先をスムーズに見つけやすいことも大きなメリットです。

双方のメリット・デメリットを見極め、専門家へ相談を

クリニックを廃業する場合、経営者にとっては多額のコストや精神的負担が発生します。また、スタッフは新たな職場、患者さんはかかりつけ医を新たに探さなければなりません。経営者・スタッフ・患者さんのそれぞれにデメリットがあるため、単に「承継or廃業」の二択ではなく「承継がうまくいかなかった場合の最終手段が廃業」といった考え方で行動することがポイントです。 まずは信頼できる仲介サービスやコンサルタントを見つけ、事業承継について相談することから始めていきましょう。

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