一般社団法人 日本医業承継機構

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コラム

クリニックの売却価格はどう決まる?計算方法や影響する要素、成功のコツを解説

クリニックのM&Aを検討するにあたり、売却価格はどのように決まるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。譲受側へ適切な金額を提示できるかどうかは、承継の成功を左右する重要な課題です。売却を決意したら、なるべく早い段階で「売却価格の考え方」を把握することで、承継の準備をスムーズに進めていけるでしょう。

そこで、本記事ではクリニックの売却価格の計算方法や価格決定に影響する主な要素、売却成功に向けて注意したいポイントについて詳しく解説します。医業承継をお考えの方は、ぜひ参考にしながら売却準備を進めてみてください。

クリニックの売却価格の計算方法

クリニックの売却価格は、2,000万円~4,000万円になるケースが多いです。ただし、クリニックを取り巻くさまざまな要素によって評価額は大きく変わります。高額な場合は1億円を超えることもあり、相場の開きが大きいです。

では、売却価格はどのように算出されるのでしょうか。依頼するM&Aの仲介会社によって異なりますが、主に以下の3パターンのうち、いずれかの計算方法で算出されるケースが一般的です。

1.時価純資産価額法

時価純資産価額法は、クリニックのM&Aで最も多く用いられている計算方法です。クリニックが保有する資産の時価総額から負債の時価総額を差し引いた金額を評価価格とする手法で、以下の計算式で算出します。

・クリニックまたは医院の総資産(資産-負債)+営業権(見込利益)=売却価格

なお、上記の「営業権」とは診療ノウハウやブランド、人材力といった無形資産のことを指し「のれん」や「のれん代」と呼ばれることも多い価値要素です。具体的には、クリニックが将来生む可能性のある利益を数値化したものが営業権であり、これをお金に置き換えたものを対価として、承継先の院長から承継元の院長へ支払われる方法がとられています。

営業権の計算方法としては、黒字経営のクリニックの場合は「院長の年間所得×1年分」で算出されるケースが一般的です。ただし、直近3年間の所得が右肩上がり、あるいは右肩下がりになっている場合は、その状況が評価価値に影響することもあるほか、赤字経営のクリニックにおいては「将来の収益が見込めない」と判断されて営業権の価値が評価されない傾向があります。

2.DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)

DCF法とは、事業計画書をもとに将来的に得られる可能性がある利益(フリーキャッシュフロー)を計算し、将来の不確定性やリスクを「割引率」として考慮した上で評価価格を求める手法です。クリニックの将来性に重心を置いた計算方法であるため、事業計画がしっかりしていれば、高額な売却価格を設定できる可能性があります。

3.取引事例法

取引事例法は、過去の取引実績に基づいて、クリニックの売却価格を算出する手法です。過去の類似取引を参考にしながら適正な評価を下す必要があるため、まずは過去の取引価格が妥当かどうか慎重に検討した上で評価を行うことが求められます。

クリニックの売却価格に影響する要素

クリニックの売却価格を決定する際は、一般的に以下の要素も考慮されることが多いです。

・経営状況

評価対象となるクリニックの経営が安定していて継続的に利益を出している場合、売却価格は高くなりやすいです。逆に、経営が悪化しているクリニックはマイナス評価となり、売却価格も低くなる傾向があります。ただし、将来的に収益性が見込める明確な根拠がある場合は、現在の経営状況が悪くてもそれほど評価に影響しないか、高く評価される可能性もあるでしょう。

・不動産の価値

土地や建物を所有しているクリニックの場合、その価値も売却価格に影響することが多いです。不動産の評価にあたっては時価や築年数、内装・設備の状態なども価値を決定づける重要な要素とされます。加えて、一般的に「時価が高い」「内装や設備が新しく、状態が良い」などの要素を備えていると、価値評価額や売却価格が高くなる傾向があります。

・立地や患者数、評判

「駅に近い」「人口密度が高い」などの立地条件が良い場合も、クリニックの評価価値は高くなりやすいです。また、地域の認知度や評判も売却価格に影響するため、患者数が多い場合や地域での評判が高い場合は「集客性が高い」と判断され、プラス評価となる可能性があります。

・専門領域診療がメインかどうか

現在の院長のみ対応可能な専門領域診療がクリニックの売上の大部分を占めている場合、売却価格が低くなる傾向があります。特に、その分野が美容整形やインプラント、レーシックといった自費診療であれば、承継先の医師が医業を引き継げないリスクが大きいことから、評価価値が下がるケースが一般的です。

クリニックの売却を成功させるポイント

ここまでご紹介した売却価格の考え方を踏まえ、売却成功に向けて以下の2点に注目しましょう。

・優秀な医師・看護師の人材流出に注意する

承継前に優秀な医師や看護師が別のクリニックに移動してしまうと、患者さんも一緒に離脱する恐れがあります。患者さんの信頼を得ている人材を引き継げるかどうかは承継先にとって重要な評価ポイントであり、引き継げない場合は交渉の難易度が上がるリスクがあるためです。日頃から医師や看護師、ほかのスタッフのフォローをしっかりと行い、優秀な人材を確保しておくことを心がけましょう。

また、承継決定後は承継の趣旨や承継後の診療方針・雇用条件などをきちんと説明して、スタッフが不安を抱くことのないように配慮することも大切です。

・緻密な承継スケジュールを立てる

スケジュール管理は、クリニックの売却を成功させる重要なポイントです。医業承継は一般的な企業のM&Aよりも必要な手続きが多く、長丁場での対応が求められます。実際、売却するまでに1~2年程度かかるケースもあり、多岐にわたる手続きや取引を効率的に進めていくためには緻密なスケジュール管理が欠かせません。

まずは「希望の売却時期」を設定し、それまでに必要な手続きや取引などをしっかりと把握した上で準備を進めていきましょう。また、計画したスケジュールについてはM&Aの仲介業者などにも共有し、サポートを得ながら一つひとつのステップを着実に踏んでいけると、スムーズな承継を目指せます。


適切な売却価格の設定に向け、信頼できる専門家へ相談を

クリニックの売却価格は一般的に「時価純資産価額法」によって算出され、経営状況はもちろん所有している不動産の価値や立地条件、患者数、地域での評判といったさまざまな要素が加味されて決まるケースが多く見られます。また、医師や看護師を確保できるかどうかも評価価値を左右しやすいため、優秀な人材が流出しないように対策を講じることも必要です。

そういった注意点に配慮しながら自力で適切な売却価格を設定することは難しく、承継手続きのスケジュール管理にも手間がかかります。そこで、クリニックの売却を決断したら、医療機関のM&Aに豊富な実績を持つ仲介サービスや医業承継コンサルタントに相談し、細かなアドバイスを得ながら売却価格の検討や手続きなどを進めていくといいでしょう。ぜひ信頼できる専門家を見つけて、プロとの二人三脚でスムーズな売却を目指してください。

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